第14回日本難病医療ネットワーク学会@函館で,とりわけ印象に残ったのは,東海大学の荻野美恵子先生による協働意思決定に関する2つのご講演でした.恩師の西澤正豊先生に荻野先生をご紹介いただいて以来,臨床倫理学について多くのことを学ばせていただいてきましたが,今回のご講演では,議論がこれまで以上に深まり,多くの医療者が共有すべきと思われることがたくさんありました.とくに印象に残ったのは,患者さんが口にした言葉が必ずしもその人の希望のすべてを表しているとは限らないこと,まだ決める必要のないことを急いで決めさせないこと,医師も「患者の自己決定だから」と責任を回避せず,共に悩み,考えること,そして安易に「共感」や「寄り添う」という言葉に頼らず,患者さんを理解できたと思い込まないことなどです.いずれも,患者さんの自律性を尊重しながら,医療者が一歩踏み込んで「協働する」ことの重要性を問い直すものでした.
こうした学びを日頃の臨床や教育に活かしたいと思い,昨晩,自身が使用している臨床倫理の講義スライドを改訂しました.なかでも,最も大きな見直しが必要だと感じたのが,Shared Decision Making(SDM:共同意思決定)についての説明でした.医療における意思決定は,かつては医師が治療方針を決定するパターナリズム(父権主義)が中心でしたが,現在では患者の価値観や希望を尊重し,医療者と患者が一緒に治療方針を決めるSDMが重視されています.しかし,その理念は広く支持されているものの,実際の臨床現場では必ずしも実践されていないという課題があります.今回のご講演で,荻野先生は,カナダ・トロント大学のAlejandro Jadad先生らが2010年に発表した,SDMをさらに発展させたCollaborative Decision Making(CDM:協働意思決定)という考え方を提唱する論文を紹介してくださいました.恥ずかしながら,私はこの論文を存じ上げなかったため,改めて読んでみました.
著者らは,SDMにはいくつかの限界があると指摘しています.まず,多忙な診療現場では十分な説明や対話の時間を確保することが困難です.また,患者さんも常に積極的な意思決定を望んでいるとは限りません.病状が重くなるほど,自分で決定する負担を避け,医師に判断を委ねたいと考える患者さんもいます.実際,NEJM誌の元編集長で著名な消化器病医のFranz Ingelfingerは,自身が食道胃接合部癌を発症した際,術後の治療方針をめぐって医師仲間から相反する助言を受け,判断に苦しみました.最終的に,信頼できる医師に判断を委ねることで大きな安堵を得たと述べています.この経験は,患者自身が治療方針を決めることだけでなく,信頼できる医師に判断を委ねるという選択も尊重すべきであることを示しています.自分ももし神経難病になったら,きっと自分では判断しないと思います.
著者らは,こうした問題を踏まえ,医療者と患者が協力して健康上の問題を解決するCDMを提唱しています.論文で比較された4つの意思決定モデルを表1に整理しました.従来のパターナリズムでは医師が指示し,患者は受動的に従います.反対に自律的意思決定モデルでは患者が主導し,医師はその希望を受け入れます.いずれも情報の流れは基本的に一方向です.これに対しSDMでは,医師と患者が双方向に情報を交換し,意思決定に共に参加することを目指します.さらにCDMでは,医師は支援者,患者は主体的な参加者となり,双方の知識や経験を組み合わせて新たな理解を生み出し,健康改善に向けた具体的な行動計画を作ります.SDMが治療方針を「一緒に決めること」に重点を置くのに対し,CDMは患者が抱える問題を「一緒に考え,解決していくプロセス」を重視する点が大きな違いです.

この違いを説明するため,著者らはHIV感染症の患者が薬物治療を拒否した場合を例に挙げています.SDMでは,医師が治療の必要性や利益・不利益を説明し,患者と話し合ったうえで,治療を受けないという選択も尊重します.一方,CDMでは,さらに患者が治療をためらう背景を探ります.例えば,HIV感染の診断を受け入れられないことや,薬物治療に対する否定的な感情が原因かもしれません.その場合,問題を「治療するか,しないか」から「治療に対する不安や葛藤にどう向き合うか」へと捉え直します.そして,必要に応じてカウンセリングを受けるなど,具体的な行動計画を共同で作成します.たとえ直ちに治療開始に至らなくても,患者の健康改善に向けて前進できるという考え方です.
CDMでは,医師は医学の専門家であり,患者は自分自身の生活や経験についての専門家であると考えます.双方が学び合い,知識を共同で構築していくことが重要です.ただし,本論文はCDMがSDMよりも優れた臨床転帰をもたらすことを実証した研究ではなく,新しい意思決定モデルを提案した概念論文です.著者らも,SDMとCDMを対立するものではなく,相互に補完するものと位置づけています.
この考え方は,進行性神経疾患や終末期医療において,とくに重要だと思います.例えば,人工呼吸器を装着するかどうかを患者と医療者が一緒に決めることはSDMですが,患者がどのように生きたいのか,何に不安を感じているのか,家族や医療者に何ができるのかを共に考え,継続的に支援することはCDMの考え方に通じます.もちろん,CDMは患者の意思を医療者の望む方向に変えることを目的とするものではありません.
実際の臨床現場でも,こうした協働はすでに行われていると思いますが,SDMとCDMの違いを明確に意識している医療者は,それほど多くないかもしれません.そして今回の荻野先生のご講演のなかに,「患者の自己決定だから」と言って,医療者が関わる責任から逃げてはいないかという言葉がありました.患者の自律性を傷つけることを恐れて踏み込まないのではなく,むしろその自律性を支えるためにこそ,患者さんと共に悩み,考え,行動することが大切なのだと思います.「一緒に決めること」だけで終わらず,「一緒に考え,問題を解決すること」へ. 患者さんと医療者が「戦友」として共に歩むために,その一歩を踏み出す勇気が求められているのだと感じました.
O’Grady L, Jadad A. Shifting from shared to collaborative decision making: a change in thinking and doing. J Participat Med. 2010;2.


こうしたECSの変化は,老年期に突然始まるわけではありません.マウスでは海馬の2-AGが生後9か月頃から減少し,ヒトの死後前頭皮質でもCB1受容体密度とシグナル伝達効率が10年ごとに約8~10%低下すると報告されています.ECSは海馬や前頭前皮質の記憶・学習機能にも関与しており,CB1受容体を欠損させたマウスでは,中年期から学習・記憶障害が顕著になります.このことは,
さらにこの総説で注目されるのが,
ECSは神経炎症以外にも,海馬の神経新生,シナプス可塑性,エネルギー代謝,エピジェネティックな遺伝子発現調節などに関与しています.さらに興味深いのは,THCの作用が年齢によって異なることです.若齢動物へのTHC投与は記憶機能に悪影響を及ぼす一方,18か月齢のマウスに低用量THCを28日間投与すると,学習・記憶機能が改善し,海馬の樹状突起スパイン密度が増加しました.さらに,BDNFやKlothoなどの発現が増加し,遺伝子発現パターンが若齢マウスに近づくことも報告されています.これは,加齢によって低下したECSの働きを適切に補うことで,一部の脳老化に関連する変化を改善できる可能性を示しています.



