【プレスリリースしました】新しい中枢神経系の炎症性疾患GFAPアストロサイトパチーの病態メカニズムを解明:新規バイオマーカー「TNFRSF9」を発見!

自己免疫性GFAPアストロサイトパチーは,髄膜脳炎や脳脊髄炎を呈する新しい中枢神経系の炎症性疾患です.多くの患者さんはステロイド治療に反応しますが,重症化や再発を経験する患者さんもいます.しかし,炎症の強さや重症度,再発リスクを客観的に評価できるバイオマーカーは確立されていません.今回,当科の木村暁夫臨床教授らは,岐阜大学寄生虫学・感染学分野,福島県立医科大学多発性硬化症治療学講座,聖マリアンナ医科大学脳神経内科,藤田医科大学医療科学部との共同研究により,GFAPアストロサイトパチーの新たな脳脊脳脊髄液バイオマーカーを発見し,Neurology誌に発表しました.
プレスリリース
https://www.gifu-u.ac.jp/news/research/2026/07/entry27-15227.html

まず,未治療のGFAPアストロサイトパチー患者4名と,非炎症性疾患である特発性正常圧水頭症患者4名の脳脊髄液について,92種類の炎症関連蛋白質を網羅的に解析しました.その結果,GFAPアストロサイトパチーで最も顕著に増加していたのが,tumor necrosis factor receptor superfamily member 9,TNFRSF9でした.TNFRSF9はCD137または4-1BBとも呼ばれ,主に活性化T細胞,とくにCD8陽性細胞傷害性T細胞に発現する免疫関連分子です.

続いて,GFAPアストロサイトパチー42名と,多発性硬化症,視神経脊髄炎スペクトラム障害,抗NMDA受容体脳炎,細菌性髄膜炎,特発性正常圧水頭症の計60名を対象に,脳脊髄液TNFRSF9濃度を測定しました.その結果,GFAPアストロサイトパチー群では,すべての疾患対照群より有意に高値でした(図上).GFAPアストロサイトパチーにおける治療前のTNFRSF9濃度中央値は62.1 pg/mLであったのに対し,他疾患ではおおむね39~45 pg/mLでした.さらに,免疫治療後には44.1 pg/mLまで有意に低下しました(図下).つまりTNFRSF9は,GFAPアストロサイトパチーで上昇するだけでなく,治療に伴う病勢の変化も反映する可能性があります.

TNFRSF9高値は,脳脊髄液細胞数,蛋白濃度,ADA値の上昇と関連し,入院時の神経障害が重い患者さんや意識障害を伴う患者さんでも高値でした.さらに,特徴的なMRI所見である血管周囲線状造影を認める患者さんや,その後に再発した患者さんでも高値でした.TNFRSF9は炎症性サイトカインであるIL-6やTNF-α,アストロサイト障害を示すGFAPとも相関しており,免疫活性化とアストロサイト障害の両方を反映している可能性があります.

以上から,脳脊髄液TNFRSF9は,GFAPアストロサイトパチーの炎症活動性,重症度,治療反応性,再発リスクを評価する新たなバイオマーカー候補と考えられます.また,TNFRSF9を介したT細胞活性化が,本疾患の病態に関与する可能性も示唆されます.病態解明を進展させるだけではなく,新たな治療標的の探索や治療法の確立につながることが期待されます.ただし,本研究は後方視的で症例数も限られているという限界があります.今後,前向き多施設研究による検証と,臨床的に有用な基準値の確立が必要です.

Kimura A, Takekoshi A, Maekawa Y, Tanaka K, Yamano Y, Saito K, Takemura M, Yamamoto Y, Shimohata T. Involvement of TNFRSF9 in the Pathogenesis of Autoimmune Glial Fibrillary Acidic Protein Astrocytopathy. Neurology. 2026 Aug 11;107(3):e218306. doi: 10.1212/WNL.0000000000218306.

★岐阜大学では自己免疫性脳炎等に関心のある大学院生を募集しております.詳細は当科HPをご覧ください.
https://www.med.gifu-u.ac.jp/neurology/graduate/

熊本県で発生した地震を受けて―難病患者さん,ご家族,支援者の皆さまへ

このたびの地震により被災された皆さまに,心よりお見舞い申し上げます.

難病患者さん,ご家族,行政・医療・看護・介護などの支援者の方々にご活用いただくため,厚生労働省 難病患者の支援体制に関する研究班(小森班→現.下畑班)で作成した「難病患者の災害対策ガイドライン(溝口功一先生,山村修先生,中根俊成先生らが執筆)」を共有いたします.本ガイドラインには,発災後の安全確認,避難,安否確認,停電時の電源確保,人工呼吸器・吸引器・在宅酸素への対応,治療薬の確保,避難所で必要となる配慮などをまとめています.

発災後,まずご覧いただきたい箇所は以下になります.

  • 5053:「避難所でのニーズ」
  • 5455:「安否確認と情報共有」
  • 5658:「停電対策と電源確保」
  • 62頁~74:「医療・ケアニーズが高い難病患者の支援」
  • 7576:「災害時の難病治療薬剤の留意点」

発災後の重要ポイントをまとめます.

1.まず,患者さんの安全と身体状態を確認してください.
転倒,けが,呼吸状態の変化,チューブやカニューレの抜去,医療機器の破損や停止がないかを確認します.人工呼吸器などを使用している場合は,正常に作動しているか,停電時にバッテリーへ切り替わっているかを確認してください.

2.自宅で療養を継続できるかを早めに判断してください.
自宅の損壊,火災や土砂災害の危険,停電・断水の長期化,医療や介護の継続困難がある場合には,安全が確保され,電源や医療的ケアを受けられる避難先への移動を検討してください.人工呼吸器,吸引器,胃ろうなどを使用している方は,一般の避難所では対応が難しい場合があります.

3.安否と支援の必要性を発信してください.
電話がつながりにくい場合には,災害用伝言ダイヤル「171」,災害用伝言板「web171」,メールやSNSなど,複数の方法を利用してください.主治医,訪問看護ステーション,ケアマネジャー,保健所,市町村,医療機器業者などにも,安否,避難場所,停電や医療機器の状況を伝えてください.

4.人工呼吸器や吸引器を使用している方は,電源確保を最優先してください.
バッテリー残量と使用可能時間を確認し,電力消費をできるだけ抑えます.電力が失われた場合には,蘇生バッグや手動・電池式吸引器などの代替手段を使用します.停電が長期化するおそれがある場合には,人工呼吸器を使用できる医療機関等への早期避難を検討してください.発電機は一酸化炭素中毒を防ぐため,必ず屋外で使用してください.

5.薬を紛失したり,不足したりした場合は,自己判断で中断しないでください.
お薬手帳,残っている薬,最後に服用・投与した時刻を確認し,主治医または薬剤師に相談してください.特に,抗てんかん薬,パーキンソン病治療薬,ステロイド,バクロフェン,ベンゾジアゼピンなどは,急な中断によって重い症状を生じることがあります.

6.避難所では,難病があることと必要な支援を早めに伝えてください.
医療機器の電源,薬剤,食事形態,経管栄養,吸引,移動・排泄介助,トイレへの配慮,静かな療養スペースなど,必要な支援を避難所の運営者,保健師,医療者に具体的に申し出てください.外見からは支援の必要性が分かりにくい難病もありますので,早めの情報共有が重要です.

現地自治体,医療機関,電力会社などが発信する最新情報を優先しながら,患者さんの病状や療養環境に応じて,本ガイドラインの必要な箇所をご活用いただければ幸いです.

ガイドラインPDF  

https://plaza.umin.ac.jp/nanbyo-kenkyu/asset/cont/uploads/2026/03/20260326.pdf

研究班ホームページ  

https://plaza.umin.ac.jp/nanbyo-kenkyu/

 

アルツハイマー病の治療は男女で変えるべき?APOE4が脳の免疫に及ぼす意外な性差

アルツハイマー病は女性に多く,その背景には遺伝的危険因子であるAPOE ε4アレル(APOE4)の影響が,男性より女性で強く現れる可能性が指摘されています.しかし,同じAPOE4を持っていても,なぜ男女でその影響が異なるのかは,十分に分かっていません.今回,APOE4が脳の免疫,髄膜リンパ管,脂質代謝,神経炎症,認知機能に及ぼす影響が,雌雄で大きく異なることがNeuron誌に報告されました.さらに,脳の自然免疫を抑制したところ,雌では認知機能が改善した一方,雄では逆に悪化するという,対照的な結果が得られました.今後,APOE4や脳内免疫を標的とする治療を開発する際には,性別による治療効果と副作用の違いをあらかじめ検証する必要がありそうです.米国Mayo Clinicを中心とする国際共同研究グループの研究です.

著者らはまず,ヒトのAPOE3またはAPOE4をホモ接合で発現するマウスを用い,その影響を雌雄別に比較しました.さらに,ミクログリアや脳境界部マクロファージの維持に必要なCSF1受容体の働きを,阻害薬PLX5622によって抑え,ミクログリアや脳境界部マクロファージなど,CSF1Rに依存する自然免疫細胞を部分的に減少させました.そのうえで,髄膜リンパ管,脳内炎症,脂質代謝,認知機能への影響を検討しました.

まず図1のGraphical abstractの上半分をご覧いただくと,本研究の全体像をつかみやすいです.雌E4/E4マウスでは,未治療の段階で,脳境界部マクロファージの活性化,髄膜リンパ排液の異常,神経炎症,認知機能低下が認められました.これらのマウスでPLX5622により自然免疫細胞を部分的に抑制すると,神経炎症が軽減し,認知機能も改善しました.一方,雄E4/E4マウスでは,未治療の段階で,雌と比較して脳内の炎症が比較的抑えられ,認知機能も保たれていました.しかし,自然免疫を抑制すると,脳を守っていた免疫監視機能が損なわれ,神経炎症が増悪し,認知機能も低下しました.つまり,同じAPOE4を持つマウスに同じ免疫介入を行っても,雌では有益に,雄では有害に作用するという,正反対の結果が示されました!

詳しくデータを見てみると,髄膜の免疫環境には,もともと雌雄差がありました.髄膜にはマクロファージ(CD206とMHCクラスIIを発現)が存在しますが,APOEのタイプにかかわらず,雄より雌で多く認められました.さらに,髄膜を構成する一つひとつの細胞の遺伝子発現を調べると,APOE4によって変化する遺伝子や免疫反応の経路は,雌雄でほとんど重なっていませんでした.つまり同じAPOE4を持っていても,髄膜で起こる免疫反応は,雌と雄で大きく異なっていたのです.一方,雄E4/E4マウスでは,髄膜リンパ管の広がりが増えていました.ところが,脳脊髄液を頸部リンパ節へ排出する機能は,むしろ低下していました.つまり,リンパ管が広く分布していても,排液機能が高いとは限らないことが示されました.

脳内の脂質にも明らかな性差が認められました.E3/E3マウスと比べると,雌E4/E4マウスではラクトシルセラミドが増加した一方,雄E4/E4マウスではラクトシルセラミドが低下し,トリアシルグリセロール,スフィンゴミエリン,セラミド関連脂質,コレステリルエステルなどが増加していました.つまり,APOE4による脂質代謝への影響は,雌雄で異なっていたのです.

雌E4/E4マウスでは,脳内の炎症が強いため,記憶機能も低下していました.PLX5622で自然免疫を部分的に抑制すると,文脈記憶には明らかな改善がみられなかったものの,手がかり記憶は改善しました.一方,雄E4/E4マウスでは,PLX5622によって両方の記憶が悪化しました.つまり,雌では自然免疫が炎症と記憶障害を促進していたのに対し,雄では脳を守る方向に働いていた可能性があります.

最後に著者らは,6つの公開ヒト脳single-nucleus RNA sequencingデータセットを統合して解析しました(Graphical abstractの下半分).その結果,APOE4による免疫細胞の遺伝子発現変化は,ヒトでも男女で異なっていました.女性APOE4保有者の脳境界部マクロファージでは,抗原提示に関わるHLAクラスII遺伝子の発現が上昇していましたが,男性では反対に低下していました.マウスだけでなくヒト脳でも,APOE4に対する免疫応答には性差があることが支持されました.

本研究は,APOE4の影響を理解するには,脳実質だけでなく,髄膜免疫,リンパ管,脂質代謝,血管などを一体のシステムとして捉える必要があることを示しました.性差が生じる原因はまだ不明ですが,雌では自然免疫が炎症を促進し,雄では脳を守る方向に働いていた可能性があります.ただし,今回のマウスは典型的なアルツハイマー病モデルではありません.それでも,「脳の炎症を抑えればよい」という単純な治療戦略では不十分であり,性別を考慮した個別化治療の必要性を示す重要な研究だと思います.

Delivanoglou N,et al.Sex-specific APOE4-dependent innate immunity regulates meningeal lymphatics,brain lipids,neuroinflammation,and cognition.Neuron.2026;114:2566-2586.e11.

大脳皮質基底核症候群を生前バイオマーカーで検討すると6つの病態に分類できる!

大脳皮質基底核症候群(corticobasal syndrome:CBS)は,左右差の強い筋強剛や動作緩慢,ジストニア,ミオクローヌスなどの運動症状に,失行,皮質性感覚障害,他人の手徴候,認知機能障害などを伴う症候群です.重要なのは,CBSという臨床診断と,病理学的概念である大脳皮質基底核変性症(corticobasal degeneration:CBD)を分けて考えるという点です.つまりCBSの背景には,CBDや進行性核上性麻痺(PSP)などのタウオパチー,アルツハイマー病,Lewy型αシヌクレイノパチーなど,複数の疾患が含まれるということです.

今回,ドイツのミュンヘン大学病院から,CBS患者50名を対象に,複数のバイオマーカーを用いて背景病理を生前に検討した研究が,Movement Disorders誌に報告されました.アミロイドβ病理は脳脊髄液Aβ42/40比とアミロイドPET,タウ病理は[18F]PI-2620タウPET,Lewy型αシヌクレイン病理は脳脊髄液αシヌクレインseed amplification assayを用いて評価しました.

さて結果ですが,タウ陽性は90%,アミロイドβ陽性は28%,αシヌクレイン陽性は24%でした(図).3種類のバイオマーカーを組み合わせると,背景病理は,タウ優位病理52%,アルツハイマー病18%,アルツハイマー病+Lewy型病理10%,タウ優位病理+Lewy型病理10%,Lewy型病理単独4%,分類不能(すべて陰性)6%の6種類に分かれました.つまり,50名中47名,94%で背景病理を生前に推定できたことになります.

これまであまり考えたことのなかったCBSにおけるαシヌクレイン病理は,それ単独でCBSを生じる例よりも,アルツハイマー病やタウ病理に併存する例が多く認められました.とくに,アルツハイマー病を背景とするCBSでは,14名中5名,36%がαシヌクレイン陽性であり,混合病理が少なくないことが示されました.

臨床像にも,バイオマーカーによる違いが認められました.アミロイドβ陽性例では,認知機能障害や失行がより強く認められました.タウ陽性例では運動症状が重い傾向がみられましたが,統計学的有意差にはわずかに達しませんでした(P=0.061).一方,αシヌクレイン陽性例では,意外にも運動症状が比較的軽く,脳脊髄液NfLも低値でした.

さらに,24名を中央値1.9年間追跡したところ,PSP Rating Scaleの年間悪化は,αシヌクレイン陰性例で8.5点,陽性例で3.6点でした.αシヌクレイン陽性CBSでは進行が緩やかである可能性が示されました.ただ症例数が少なく,多重比較補正も行われていないため,探索的な結果として慎重に解釈する必要があります.

この研究の重要な点は,CBSを症候学的な診断から,分子病理に基づく診断へと発展させる可能性を示したことにあります.同じCBSであっても,背景病理・病態は全く異なりますので,治療標的となる異常タンパク質は症例ごとに異なるものと考えられます.今後,抗アミロイドβ療法,抗タウ療法,抗αシヌクレイン療法をCBSに応用するには,背景病理を生前に確認することが重要になります.本研究は,CBSの病態に応じた治療や,臨床試験における適切な患者選択につながる重要な一歩と考えられます.

Palleis C,et al.A Biomarker-Based Classification of Corticobasal Syndrome.Mov Disord.2026;41:129-142.doi:10.1002/mds.70070.PMID:41048081.

 

インタビューの動画は以下からご覧いただけます.https://www.movementdisorders.org/Moving-Along/biomarker-based-classification-Corticobasal-Syndrome

なお,インタビューでは,Aβ陰性かつタウ陽性の群を4リピートタウオパチーと表現していますが,論文本文では,より慎重に「タウ優位病理」と記載されています.[18F]PI-2620タウPETは4リピートタウ病理を示唆しますが,4リピートタウとアルツハイマー病にみられる3リピート/4リピート混合タウを完全に区別できるわけではないためだと思います.

【総説論文が公開されました】機能性神経障害に併存する頭痛をどう診るか?

機能性神経障害(FND)では,頭痛,とくに片頭痛が高頻度に併存します.しかし実臨床では,頭痛が見逃されたり,「心因性の頭痛」とみなされ,十分に評価・治療されなかったりすることが少なくありません.私自身,多くのFND患者さんを診療するなかで,この問題について学び,整理する必要性を強く感じてきました.

その成果の一部は,先日,岐阜で開催したHeadache Master Schoolでも講演させていただきました.今回,その内容をまとめた総説(スコーピングレビュー)「機能性神経障害に併存する頭痛の診療」が,日本神経学会誌『臨床神経学』に公開されました.

本稿では,FNDと片頭痛の併存頻度や臨床的特徴,共通する病態機序,診断上の注意点,さらに両者を関連する病態として捉え,統合的に治療することの重要性について解説しました.とくに重要なのは,FND患者さんに併存する頭痛を過小評価しないことです.一方で,単一の陽性徴候だけを根拠として,FNDを過剰診断しないよう注意する必要もあります.また,片頭痛がFND症状の誘因や増悪因子となっている場合には,片頭痛を適切に治療することが,FND症状の改善にもつながる可能性があります.

FND診療や頭痛診療に携わる脳神経内科医,脳神経外科医,総合診療医をはじめ,多くの先生方にご覧いただけましたら幸いです.

下畑享良.機能性神経障害に併存する頭痛の診療.『臨床神経学』Advance Publication DOI:10.5692/clinicalneurol.cn-002260

以下よりPDFをダウンロードできます.https://www.jstage.jst.go.jp/article/clinicalneurol/advpub/0/advpub_cn-002260/_pdf/-char/ja

【講演会のご案内】マイクロ・ナノプラスチック 身体への危険性@大阪・茨木市

2026年9月12日(土),大阪・茨木市で開催される「ここまでわかってきた!プラスチックのカラダへの影響―子どもたちのために,今できることは?―」にて標題の講演します.

マイクロ・ナノプラスチックは,大気,飲料水,食品,室内空気など,私たちの身の回りに広く存在しています.近年では,人体のさまざまな組織から検出され,心筋梗塞や脳卒中との関連,脳や胎盤への侵入,胎児や子どもの発達への影響などが注目されています.講演では,現在どこまで科学的に分かっているのか,まだ分かっていないことは何かを,最新の研究をもとに分かりやすく解説します.

続いて,環境ジャーナリストの栗岡理子さんによる人工芝の問題についての講演があり,後半のパネルディスカッションでは,「子どもたちのために,今できることは?」をテーマに,参加者の皆さまと一緒に考えます.

📅 日時:2026年9月12日(土)14:00~16:30
📍 会場:立命館いばらきフューチャープラザ
      1階カンファレンスホール
💻 オンライン(Zoom)参加も可能
💰 参加費無料
📝 申込締切:8月31日(月)
定員は,会場139名,オンライン300名です.

マイクロ・ナノプラスチックの健康影響に関心のある方,子どもたちの環境と未来について考えたい方に,ぜひご参加いただければと思います.チラシのQRコードないし以下のリンクよりお申し込みください.

会場参加申込:
https://x.gd/xpwDD

オンライン参加申込:
https://x.gd/UvoHD

脳脊髄液の新たな「出口」を発見!―嗅球周囲のくも膜開窓から鼻,首へ続く排出路

グリンファティックシステムを含む,脳の老廃物排出機構についての興味深い続報です.脳脊髄液は,脳や脊髄を物理的に保護するだけでなく,アミロイドβ,リン酸化タウ,αシヌクレインなどの老廃物を脳から運び出す大切な役割を担っています.近年,脳脊髄液がくも膜下腔から硬膜リンパ管へ移行し,最終的に頸部リンパ節へ排出されることが分かってきましたが,その正確な経路は十分に解明されていませんでした.今回,韓国を中心とする国際研究グループが,この排出経路を詳細に明らかにし,Cell誌に報告しました.

研究グループは,リンパ管を蛍光で可視化できるマウスのくも膜下腔へ脳脊髄液トレーサーを注入し,三次元共焦点顕微鏡や走査電子顕微鏡を用いて,その流れを追跡しました.その結果,左右の嗅球の間に位置するくも膜に,直径2~12 μmの多数の小さな孔,すなわち「くも膜開窓(arachnoid fenestrations)」が存在することが分かりました.同様の構造はカニクイザルでも確認されました.

Graphical abstract(図1)には排出経路の全体像が示されています.脳脊髄液は,嗅球周囲のくも膜開窓から硬膜リンパ管へ入り,鼻腔の天井にある篩板の孔を通過して鼻粘膜リンパ管へ流れ,最終的に頸部リンパ節へ排出されます.つまり,脳には「嗅球から鼻を通って首へ向かう排水路」が存在することになります.くも膜開窓は,くも膜下腔側から見れば,脳脊髄液が脳外へ向かう「出口」に相当します.

図2Aは,この排出路の解剖学的な全体像を示した広視野画像です.緑色はリンパ管内皮細胞の分化に関わるProx1をGFPで可視化したもので,赤色はリンパ管形成に関わる受容体VEGFR3,青色は主に初期リンパ管のマーカーであるLYVE1を示しています.これらが重なるリンパ管は,黄色や白色に見えます.

左右の嗅球の間に広がる嗅球部硬膜リンパ管は,篩板の孔を通る短いリンパ管を介して,鼻粘膜リンパ管へ連続しています.図2Aだけでは細部が分かりにくいため,図2Bでは4か所が拡大されています.拡大図1では篩板を通過するリンパ管,拡大図2では硬膜リンパ管内に存在する弁,拡大図3および4では嗅球間に存在する盲端状の初期リンパ管が確認できます.図中の緑矢頭は嗅球部硬膜リンパ管,白矢頭は鼻粘膜リンパ管,赤矢頭は篩板を通過するリンパ管,茶色矢頭はリンパ管弁,黄色矢頭は初期リンパ管を示しています.


図3では,大槽からくも膜下腔へ投与した赤色の蛍光粒子が,60分後に嗅槽周囲の硬膜リンパ管,篩板を通過するリンパ管,さらに鼻粘膜リンパ管の内部に認められます.一方,蛍光粒子は鼻粘膜のリンパ管外や,緑色に見える静脈洞内にはほとんど認められませんでした.この結果は,脳脊髄液がリンパ管の外を漫然と流れるのではなく,連続したリンパ管網を通って鼻腔側へ排出されることを示しています.

さらに,くも膜開窓を直径10 μmの粒子で塞ぐと,脳脊髄液トレーサーの頸部リンパ節への排出は著しく低下しました.また,マウスの嗅粘膜へ硫酸亜鉛を投与し,嗅覚感覚ニューロンと鼻腔リンパ管を化学的に退縮させると,デキストランだけでなく,蛍光標識したアミロイドβの頸部リンパ節への排出も減少しました.これらの結果から,くも膜開窓から嗅球部硬膜リンパ管へ移行する経路が,実際に機能する重要な脳脊髄液排出路であることが示されました.

一方,高齢マウスでは,嗅球周囲の硬膜リンパ管が約58%減少し,くも膜開窓も小さく,数が少なくなっていました(図4中央).さらに,篩板正中部の孔や鼻粘膜リンパ管も減少し,頸部リンパ節への脳脊髄液排出は若齢マウスより約40~50%低下していました.加齢に伴う排出障害は,リンパ管だけでなく,排出の起点となるくも膜開窓や,通り道となる篩板の孔を含む経路全体の萎縮によって生じると考えられます.

研究グループはさらに,高齢マウスの鼻腔内へ,リンパ管の増殖を促すVEGF-Cを発現するAAVベクターを投与しました.図4右では,高齢マウスで低下していた顎下リンパ節および深頸リンパ節へのトレーサー排出が,VEGF-C投与後には若齢マウスと同程度まで回復したことが示されています.くも膜開窓や篩板の孔そのものは回復しませんでしたが,嗅球周囲と鼻粘膜のリンパ管を増やすことで,低下した排出機能を補える可能性が示されました.

本研究は,脳脊髄液がくも膜を越えてリンパ系へ移行する「出口」を,形態と機能の両面から示した点で重要です.ただし,機能的な検証は主にマウスで行われ,カニクイザルではくも膜開窓の存在が形態的に確認されたにとどまります.ヒトでも同じ経路がどの程度脳脊髄液の排出を担うのか,またVEGF-Cによる介入がアルツハイマー病などの神経変性疾患の病態や症状を改善するのかは,今後の検討課題です.

ここですぐに思い浮かぶ病的タンパク質がαシヌクレインです.パーキンソン病やレビー小体型認知症では,嗅球や前嗅核に早期からαシヌクレイン病理が認められ,嗅覚障害との関連が指摘されています.本研究ではαシヌクレインを直接解析していませんが,嗅球周囲の脳脊髄液排出路が加齢などによって障害されれば,αシヌクレインの排出低下を通じて,嗅球の病変やシヌクレイノパチーの病態に影響する可能性があります.一方,この排出路がアミロイドβやタウなど複数の病的タンパク質の除去に関わるのであれば,なぜ嗅覚系の障害がとくにシヌクレイノパチーで目立つのか,という新たな疑問も生じます.非常に興味深い研究です.

Hong SP, et al.CSF clearance through arachnoid fenestrations to olfactory meningeal lymphatics.Cell.2026 Jul 21:S0092-8674(26)00755-5.