2025-01-01から1年間の記事一覧

アルツハイマー病病理はウイルスに対する2段階の防御反応?タウはリン酸化されて初めて抗ウイルス蛋白として機能し,伝播は感染防御のための準備反応である

近年,アルツハイマー病(AD)とウイルス感染との関連が注目されており,とくに単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)が病態に関与する可能性が議論されています.2024年末にCell Reports誌に掲載されたHydeらの研究は,この関係を分子レベルで明確に示した重要…

抗ウイルス薬はアルツハイマー病に効くのか?VALAD試験が示した予想外の結論

近年,単純ヘルペスウイルス1型や2型(HSV1,2)がアルツハイマー病(AD)の病態に関与している可能性が指摘されています.HSVは三叉神経節などに生涯潜伏感染し,免疫状態の変化により繰り返し再活性化する性質を持つため,この慢性的な炎症刺激が神経変性…

予防神経学がひらくこれからの健康社会 ― 脳神経内科医の新しい役割―

Neurology誌の総説「An Ounce of Prevention: The Growing Need for Preventive Neurologists」を興味深く読みました.米国神経学会ポッドキャストでも取り上げられた注目の論文です.脳神経内科医の役割を「発症後の治療」から「発症前の予防」へと転換する…

知っていただきたい「機能性神経障害」 ―診療に潜む倫理的課題と私たちができること―

機能性神経障害(functional neurological disorder,FND)をめぐる臨床倫理的問題について総説としてまとめました.FNDは筋力低下,けいれん発作,不随意運動,感覚障害など多彩な症候を呈する頻度の高いコモンディジーズです.かつては「ヒステリー」「心…

エンパシー(共感)の身に付け方と、過剰なエンパシーを持つ医師へ ―日経メディカル連載『医師こそリベラルアーツ!』第15回が公開されました

日経メディカル連載「医師こそリベラルアーツ!」の第15回が,日経メディカル「Cadetto.jp」にて公開されました.本連載は,これまで私が岐阜大学で開催してきたリベラルアーツ研究会のミニレクチャーを紙面上に再現したものです.医師・医学生の皆さんは,…

血液タウで診断したアルツハイマー病は加齢で激増するが,症状の程度はタウだけでは決まらない――tau-clinical mismatchという新しい考え方

アルツハイマー病(AD)の診療は,血液バイオマーカーの登場によって大きな転換点を迎えています.とくにリン酸化タウ217(pTau217)は,採血で済むという侵襲性の低さと高い診断精度から,AD病理を反映する指標として急速に普及するものと思われます.では①…

整形外科医が知っておくべき脳神経内科疾患(整形・災害外科 12月号)

腰痛,歩行障害,姿勢異常,しびれ,筋力低下など,整形外科の日常診療で遭遇する症候の多くは,脳神経内科疾患でも生じます.このたび,『整形・災害外科』(金原出版)12月号(https://amzn.to/3MK8mgc)において,特集「整形外科医が知っておくべき脳神経…

アルツハイマー病はひとつの疾患ではなく,少なくとも「タウ主導型」と「血管主導型」に分かれる!

アルツハイマー病(AD)はこれまで,アミロイドβ沈着に始まり,タウ病理を介して神経変性に至る疾患と考えられてきました.しかし近年,微小血管病変の存在が,この理解を大きく揺さぶりつつあります.今回,韓国からNeurology誌に,脳微小出血(CMB)がその…

COVID-19は他の呼吸器感染症よりも「機能性神経障害」を新たに発症させる強い誘因となる!

機能性神経障害(FND)は歴史的にヒステリー,心因性疾患,解離性障害,転換性障害,身体表現性障害,心気症,詐病などと呼ばれてきた疾患です.私がこの疾患に取り組んだきっかけはCOVID-19後遺症やワクチン副反応として紹介されてきた患者のなかに多くのFN…

閉経後ホルモン補充療法のアルツハイマー病リスクへの影響はなんと「開始タイミング」により決まる!

閉経後ホルモン補充療法(HRT)とアルツハイマー病(AD)リスクの関係は長年議論されてきました.その背景に「エストロゲンは本来,脳を守るホルモンである」という従来の理解があります.つまりエストロゲンはシナプス形成や抗炎症作用を通じて神経保護的に…

フランス医学史学会誌に三浦・シャルコー研究論文が紹介されました!

フランス医学史学会(SFHM)が,ジャン=マルタン・シャルコー生誕200周年を記念した特別号を公開しました(https://walusinski.com/data/charcot_esfhm.pdf).2025年にパリ・サルペトリエールで開催された国際シンポジウムの講演内容をまとめたもので,内…

ロバート・ワルテンベルグ ──医の倫理の岐路に立ったセミオロジストの光と影@Brain Nerve誌12月号

Brain Nerve誌12月号はクリスマス企画号ですが,今年は「神経学の巨人──先駆者たちの遺したもの」がテーマになりました(https://amzn.to/4s1PPwj).若い頃の私は医学史に関心がありませんでしたが,私たちが日々あたり前に行っている神経学の診療・研究の…

特発性正常圧水頭症は「脳が硬いスポンジ」のようになり流れが滞るが,治療で再び動き出す

特発性正常圧水頭症(iNPH)は,歩行障害,尿失禁,認知機能低下を三徴とする疾患(図左)で,高齢者における治療可能な認知症の代表とされています.NEJM誌に素晴らしい総説が掲載されています.著者らはまず,iNPHが単なる脳室拡大による機械的圧迫の結果…

見えない毒性因子―マイクロ・ナノプラスチックがもたらす脳・血管への脅威―@日本臨床麻酔学会第45回大会

昨日,標題の学会で招請講演の機会をいただきました.日本ではまだ議論が本格化していませんが,個人的には今年もっともインパクトのあったトピックスの一つでした.マイクロ・ナノプラスチック(MNPs)は,飲料水や食品包装だけでなく医療機器を介しても体…

アルツハイマー病「ApoE4でも救える」可能性が見えてきた:酸化リン脂質とフェロトーシスを標的とした次世代治療戦略

アルツハイマー病の発症リスクを大きく左右するアポリポタンパクE(ApoE)は,脳における脂質輸送と神経活動の維持に中心的な役割を担っています.ApoE4はアルツハイマー病の最大の遺伝的リスク因子として知られていますが,ApoE2およびApoE3Christchurch(A…

患者数 倍増のパーキンソン病を予防する25の提案!―話題の書『The Parkinson’s Plan』より―

2018年のJAMA Neurology誌にパーキンソン病(PD)患者が世界的に急増し,パンデミック状態にあることが報告されました(JAMA Neurol.2018;75:9-10.).メタ解析の結果から,全世界の患者数が2015年の690万人から,2040年では2倍以上の1420万人に急増するとい…

Happy birthday, Prof. Charcot! —シャルコー先生の遺した現代の脳神経内科医に必要な言葉とは?—

11月29日は,敬愛するジャン=マルタン・シャルコー先生(Jean-Martin Charcot,1825–1893)の誕生日です.彼の生誕200年を迎えた今年は,世界各地で記念のシンポジウムや展示会が開催されました.Lancet Neurology誌 に掲載されたChristopher G Goetz教授の…

ゴッホに学ぶ,「病を抱えながらも生き抜く力」―日経メディカル連載『医師こそリベラルアーツ!』第14回が公開されました

「医師こそリベラルアーツ!」の連載第14回が,日経メディカル「Cadetto.jp」にて公開されました.これまで岐阜大学で開催してきたリベラルアーツ研究会のミニレクチャーを紙面上に再現したもので,医師・医学生の皆さんは,会員登録をすれば無料でお読みい…

自律神経障害を欠く多系統萎縮症は確実に存在し,従来は見逃されていた可能性が高い!

多系統萎縮症(MSA)は,パーキンソニズム,小脳性運動失調,自律神経障害という3つの症候が複合的に進行するαシヌクレイノパチーです.従来は自律神経障害が診断の中心に置かれていましたが,2022年に提案された新しいMovement Disorder Society(MDS)基準…

急速に悪化する原因不明の重症脳炎をメタゲノム次世代シーケンスで診断し治療する!

脳炎の診療は,原因となる細菌やウイルスを調べるためのPCR検査「FilmArray」の導入で大きく向上しましたが,それでも原因が分からない脳炎を経験します.とくに免疫不全を背景に急速に悪化する重症脳炎の場合,原因がわからないと適切な治療ができません.…

新しい認知症危険因子としてのウイルス感染症@第44回日本認知症学会学術集会

第44回日本認知症学会学術集会(大会長:池内健先生,新潟)において,「新しい認知症危険因子としてのウイルス感染症」をテーマとしたシンポジウムを企画させていただきました.これまで本学会で十分に議論されてこなかったホットトピックスであったことも…

アルツハイマー病は「脳血管病」の性質をもつ:血液脳関門破綻,低灌流,血小板から見える新しい姿

2024年3月に「アルツハイマー病脳の血管で生じている変化を初めて見て驚く!」というブログを書きました.アミロイドβが沈着した脳血管では血管平滑筋細胞が失われ,その結果,血管の硬化,狭窄と血管腔拡張・動脈瘤化,Aβリングの崩壊と破片の拡散,破裂が…

画期的「脳クリアランス治療時代」の到来か!!脳出血後の脳内デブリ(ゴミ)を集束超音波で掃除して予後を改善する

6月に「顔のマッサージで認知症予防ができる!?リンパに流す脳クリアランス療法の夜明け」というブログを書きましたが,その際に脳脊髄液の排出経路として,頭蓋底から頸部リンパ節へと至るリンパ管ネットワークが注目されていることに触れました.顔面のマ…

三浦謹之助先生に関する研究論文を発表いたしました!

日本神経学会学術大会のシャルコーシンポジウム,およびパリで開催されたシャルコー生誕200年記念式典にて講演させていただいた,シャルコー先生の晩年の弟子で,日本神経学の黎明期を切り開いた三浦謹之助先生について,岩田誠先生と共著でまとめた論文を,…

新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(11月17日)

今回のキーワードは,Long COVIDは女性で免疫異常が顕著で制御性 T 細胞(Treg)も低下する,Long COVIDの認知症状に対する3つの介入はいずれも明確な効果なし,2024–2025年版COVID-19ワクチン接種は重症化リスクを大きく減らす,です. 今回取り上げた3論…

片頭痛は頭痛前からすでに始まっている―今後の片頭痛治療では予兆の時系列を知る必要がある―

片頭痛はBlauによると予兆期,前兆期,頭痛期,回復期に分けられます.つまり患者さんは頭痛発作が始まる前から体調のさまざまな変化を経験します.しかしその全貌や症状がどれほどの時間差をもって頭痛に先行するのかは,十分に解明されていませんでした.…

多系統萎縮症はプリオン様(prion-like)疾患である!―自己複製するαシヌクレイン線維の構造が初めて可視化される

多系統萎縮症(MSA)は,グリア細胞質封入体(glial cytoplasmic inclusion:GCI)を病理学的特徴とする神経変性疾患です.今回,スイスやフランスの国際共同チームは,組換えヒトαシヌクレインから作製した合成線維「1B」がマウス脳内で自己複製し,MSA様の…

お読みいただきたい「見えない死神 原発不明がん,百六十日の記録」

話題になっている『見えない死神 原発不明がん,百六十日の記録(https://amzn.to/4nKMUo2)』を拝読しました.書評家で作家の東えりかさんが,原発巣が特定できない「原発不明がん(Cancer of unknown primary;右図)」のために亡くなられた夫・東保雄さん…

病原性が低いと思われていたヒトペギウイルスは自己免疫性脳炎やパーキンソン病と関連する!

ヒトペギウイルス(HPgV)は,フラビウイルス科に属する一本鎖RNAウイルスです.血液・性的接触・母子間などで感染しますが,多くの感染者は無症状のまま経過します.血中で持続的に存在することがありますが,これまで「病原性が低いウイルス」と考えられて…

脳神経内科医が直面する臨床倫理の最前線―終末期・遺伝・治療選択をめぐって―

昨日,第43回日本神経治療学会@熊本にて,標題のシンポジウムを企画させていただきました.多くの先生方にご参加いただき,医療の根幹に関わる臨床倫理的問題について,率直で深い議論が交わされました. まず杉浦真先生(安城更生病院)は「神経疾患におけ…