GFAPアストロサイトパチーとナルコレプシー:アストロサイト障害による可逆性睡眠覚醒障害

当科の森泰子先生らと,筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の神林崇先生らと共同で,自己免疫性GFAPアストロサイトパチー(GFAP-A)に伴ってナルコレプシー1型(NT1)を発症した稀な症例を報告しました.GFAP-Aは,脳脊髄液中にGFAP-α抗体が検出される自己…

NHK「知的探求フロンティア タモリ・山中伸弥の!?(びっくりはてな)」に出演します!

標題の新番組の第2回放送「認知症 克服のカギ」に出演させていただきます.昨年からチーフディレクターの方々にレクチャーする機会をいただき,番組制作のお手伝いに関わってきましたが,正直どのような番組になるのか分からないまま進めていました.まさか…

p-tau217r:アルツハイマー病の進行を血液検査で知る時代に突入 ― 真の利益のために何が必要か?

アルツハイマー病(AD)において,脳内の病理変化の進行を正確に把握することは治療方針の決定や予後の予測に重要と考えられています.アミロイドPETやタウPETがその役割を担うと考えられてきましたが,これらは高額,かつ専門的な施設を必要とするため,広…

講義「打腱器の歴史」

岐阜大学では年間20数回の専門医向け「神経症候学」の講義を行っていますが,今回は少し脱線して「打腱器の歴史」の講義をしました.新作ですが,きっかけは,最近入手したソ連製のヴィンテージ打腱器でした.回診のときにみんなに見せたところ,若手のひと…

患者と目を合わせない医者たち(新潮新書)

昨日のカンファレンスで教室のみんなに紹介した里見清一先生(本名,國頭英夫先生)の新刊です(https://amzn.to/462rblW).里見先生は呼吸器内科とくに肺癌の診療を専門とするドクターです.10年ほど前ですが,日本臨床倫理学会で,会場大爆笑,でも一番考…

COVID-19は女性の血管を老化させる ―国際共同大規模研究CARTESIAN研究―

COVID-19の後遺症は心血管系の障害によっても生じます.その背景として血管内皮障害や炎症に伴う血管老化が推測されてきました.CARTESIAN研究は,COVID-19に伴うこの血管老化を検証しました.18か国,38施設の2390人を対象とした国際共同前向きコホート研究…

脳内のリチウム欠乏がアルツハイマー病を引き起こす!?

アルツハイマー病(AD)の病態において,リチウム(Li)が重要な役割を果たしている可能性が報告され話題になっています.これまでLiは気分安定薬として双極性障害の治療に用いられてきましたが,今回紹介するハーバード大学からの研究では,AD脳におけるLi…

医療AIで医師に「デスキリング(deskilling)」が起きる!:AIツール導入後わずか数か月で熟練内視鏡医の技能が低下する

近年,AIを用いた医療用ツールはさまざまな分野に導入されています.先駆的な例として大腸内視鏡検査があり,AI支援によって腺腫検出率(adenoma detection rate:ADR)が向上することが多くのランダム化比較試験で示されています.一方,AIの使用が医師自身…

コンタクト・スポーツによる反復的な頭部衝撃はアストロサイトのタウ沈着をもたらす ―棘状アストロサイトという新しいキーワード―

「頭部外傷」の予防は,認知症の14の予防因子の一つです.外傷性脳損傷や,ラグビーやサッカーなどのコンタクト・スポーツによる反復的な頭部衝撃が,慢性外傷性脳症(CTE)やアルツハイマー病のリスクを高めるという数多くの報告があります.今回,Brain誌…

CAR T細胞療法の神経毒性:病型と遅発性パーキンソニズムの機序を理解する必要がある

日本神経免疫学会学術集会(村井弘之会長@千葉)に参加し,キメラ抗原受容体T細胞療法(Chimeric Antigen Receptor T cell therapy:CAR T細胞療法)の教育セミナーを拝聴しました.とくに大学病院では今後,その有害事象を診療する機会が増えるだろうと思…

自己免疫性タウオパチーとしてのIgLON5抗体関連疾患:脳幹優位の萎縮パターンとその意義

希少疾患であるため12か国が結集して取り組んだ国際共同研究で,日本からは私ども岐阜大学が参加し,Brain誌に掲載された論文です.IgLON5抗体関連疾患は,自己免疫性脳炎の一種であり,睡眠障害,運動異常症,球麻痺,認知機能障害などを呈する多彩な臨床像…

髄膜は単なる保護膜ではなく,脳梗塞後の神経炎症の司令塔として機能する!

私は留学中より脳梗塞の基礎研究を行っていましたが,この領域からCell誌に論文が掲載されることはなかなかありませんでした.今回,米国ジョンズ・ホプキンス大学からそのCell誌に論文が掲載されましたが,たしかに従来全く考えもしなかった驚きの内容でし…

APOE ε4はアルツハイマー病だけでなく多くの神経変性疾患と関連する

APOE ε4は,アルツハイマー病の最大の遺伝的リスク因子として知られています.しかしNature Medicine誌に掲載された米国・カナダからの研究は,この遺伝子がアルツハイマー病にとどまらず,前頭側頭型認知症,パーキンソン病,パーキンソン病認知症,筋萎縮…

「非定型パーキンソニズム」という用語は使われなくなる!?

「非定型パーキンソニズム(atypical Parkinsonism)」という用語は,私たち脳神経内科医にとってお馴染みのもので,私も2019年に「非定型パーキンソニズム―基礎と臨床―(https://amzn.to/4lsqkjf)」という専門書を編集したことがあります.Parkinsonism Re…

医療者が⾝に付けるべき「リーダーシップ」とは @「医師こそリベラルアーツ!」連載第10回

「医師こそリベラルアーツ!」の連載第10回が,日経メディカル「Cadetto.jp」にて公開されました(https://x.gd/KvnYH).これまで岐阜大学で開催してきたリベラルアーツ研究会のミニレクチャーを紙面上に再現したもので,医師・医学生の皆さんには,会員登…

妊娠初期の薬剤と先天奇形リスク ―移行医療でも重要な知識―

抗てんかん薬(Antiseizure Medication;ASM)は,妊娠中の使用に際して胎児への影響を十分に考慮する必要があります.2025年に発表された北米抗てんかん薬妊娠レジストリ(North American Antiepileptic Drug Pregnancy Registry)のデータから,妊娠初期に…

当科の報告とイブニングビデオセッションの症例メモ@MDSJ

第19回パーキンソン病・運動障害疾患コングレスが終了しました.当科からは以下の5演題を報告しました.大野陽哉先生は優秀演題臨床部門に選出され,安藤知秀先生は初参加でイブニングビデオセッションのトップバッターでしたが,ともにとても立派なプレゼン…

新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(7月26日)  

今回のキーワードは,long COVIDに対する抗ウイルス薬の単独使用では短期間での症状改善は見込めない,パーキンソン病患者ではCOVID-19罹患により長期的予後が悪化する,COVID-19後に現れる新たな片頭痛様頭痛―2年後も続く後遺症としての頭痛,Long COVIDと…

シャルコー生誕200年記念シンポジウムに参加して

第19回パーキンソン病・運動障害疾患コングレス(大会長:都立神経病院 高橋一司先生)にて,「シャルコー生誕200年記念シンポジウムに参加して」と題した講演をさせていただきました.今月7月1日から5日にかけて,私はパリで開催された「シャルコー生誕200…

ミクログリアとシナプス:進行性核上性麻痺の病態理解を深める2つの研究

進行性核上性麻痺(PSP)は,中脳や大脳皮質にタウが蓄積し,運動障害や認知機能障害を引き起こすタウオパチーの代表的疾患です.これまで,神経炎症とタウの脳内伝播が病態進行に関与すると考えられてきましたが,その直接的証拠は限られていました.今回紹…

マイハンマー 2025(No 35-38) ―パリとメルカリで入手した新種?のハンマー―

私は診察用ハンマー(打腱器)を集める趣味があります.3年前にブログで紹介したときの写真を見ると19本,一昨年は27本,昨年は7本増えて34本でした(https://pkcdelta.hatenablog.com/entry/2024/08/27/075319).意識して探してもさすがに最近は新しいも…

第5指徴候,finger escape sign,Wartenberg sign ―3つの小指の神経所見はどう異なるか?―

岐阜大学では神経症候学を年間20数回の講義シリーズとして行っています.一昨日,その7回目の「手足の徴候その1」のなかで,「ミエロパチーハンド(myelopathy hand;頸髄症に伴う手の症候)」を解説しました.これは尺側から始まる「指離れ現象(finger es…

血漿リン酸化タウが最も高値なのは新生児であり,高濃度リン酸化タウが凝集や神経障害を来さない防御機構が存在する!

非常に驚いた報告です.スウェーデンを初めとするなど多数の研究機関が参加した国際共同研究です.チームは,「タウ蛋白のリン酸化が脳の発達と神経変性の両方に重要な役割を果たす」という仮説のもと,新生児を含む健常者とアルツハイマー病(AD)患者にお…

COVID-19により引き起こされる網膜のアルツハイマー病様アミロイド蓄積 ―アミロイドβ抗菌仮説の証左?―

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染がアルツハイマー病発症のリスクを増加させるという複数の研究が報告されていますが,最新のScience Advances誌に報告された研究は,網膜においてアルツハイマー病様のアミロイドβ(Aβ)病理がCOVID-19によって誘導さ…

アウシュビッツで考えた科学と倫理

パリでの学会(https://charcot2025.fr/)に参加する前に,週末を利用してアウシュビッツ・ビルケナウ強制収容所を訪れました.リベラルアーツ研究会で「夜と霧(https://amzn.to/46lteC8)」を取り上げた際に関連資料を読み漁ったため,知識としては理解し…

新しい認知症観とは?@NHK「認知症」のトリセツ

認知症をテーマにした特集が,6月19日にNHK「あしたが変わるトリセツショー」で放送されました.「認知症=能力が失われ,何もできなくなる」という多くの人が抱く思い込みに対し,「できること」に注目した新しい視点が紹介されました.「認知症になっても…

医学生が見た猫の眼振の原因を探ったら猫コロナ感染症だった話

臨床実習中の学生から相談を受けました.「保護猫施設でボランティアをしているが,眼振やふらつき歩行の猫を少なからず見かける」というのです.猫の話題なので私が関心を持たないはずはなく,以前ひそかに購入した獣医向け教科書「犬と猫の神経病学(https…

パーキンソン病患者の認知機能障害にアルツハイマー病理も影響する(合併病理の臨床的意義)

パーキンソン病(PD)における認知機能障害は,生活の質に大きな影響を与える非運動症状の一つです.また検査による客観的な認知機能障害が認められないにもかかわらず,患者本人が「もの忘れ」などの認知低下を訴える状態はParkinson’s Disease – Subjectiv…

揺らぐアミロイド仮説?―剖検脳にみるアミロイドβ除去の限界―

Acta Neuropathologica誌にインパクトのある論文が掲載されています.アミロイドβ抗体であるガンテネルマブの効果を複数の剖検脳で直接検討した報告であり,ワシントン大学を中心とするグループによって行われました.この研究は,常染色体顕性遺伝性アルツ…

顔のマッサージで認知症予防ができる!?リンパに流す脳クリアランス療法の夜明け

驚くべき論文がNature誌に掲載されました.脳脊髄液(CSF)は,脳内の老廃物や異常タンパク質を除去し,中枢神経系の恒常性を保つうえで重要な役割を果たしています(グリンファティック・システム).そのCSFの排出経路の一つとして,近年,頭蓋底から頸部…