多系統萎縮症でも病的泣き笑いが生じる!?

 少し会話しただけで笑いが止まらなくなってしまう多系統萎縮症(MSA-C)の患者さんを経験したことがある.「病的笑い」がMSAの症状のひとつとして出現するものなのかPubMedで調べてみたが,そのような文献を見つけることはできず,単なる笑い上戸なのだろうと結論付けたことがある.

 「病的泣き笑い(pathological laughing and crying;PLC)」は,抽象的・概念的な表現であり,その実体は案外分かりにくいものだが,「神経症候学〈1〉(平山惠造)」によると,「悲しみやおかしさの感情を伴わずに,泣き顔や笑い顔を呈する」状態を言う.「泣きと笑いの間には微妙な移行や類似性があり,表情も声も「泣き」とも「笑い」ともつかない場合が多く,「泣き笑い」と表現するほうが妥当なことが多い」と言われている.病変部位については十分明らかになっていないが,大脳基底核視床レベルの病変が一般的に疑われている.この病態は多くの疾患で生じることが報告されている.たとえば脳梗塞,頭部外傷,多発性硬化症,ALS,アルツハイマー病,前頭側頭型認知症,脳腫瘍,橋中心髄鞘崩壊,CBDといったものが挙げられる.しかし,上述したようにMSAにおける報告例は見つからなかった.

 ところが,今回,Harvard Medical SchoolよりMSA-CにおけるPLCのケースシリーズが最新号のMov Disordに報告された.剖検にてMSA-Cと診断を確定したdefinite MSA 1例でPLCを認めたほか,retrospectiveに検討したprobable MSA 27例のうち9例でもPLCを認めた(よって10/28=36%).10例中「笑い」のみは5例で,「笑い+泣き」は5例であった.もしこの報告が本当ならMSA-Cでは過去の認識とは異なり,実はPLCが多いということになる(著者らはsample sizeが小さいことにより割合が高くなるsampling biasは起こりうると言っているが,同時に,PLC陰性の18例にも未発症者がいるかもしれず,もっと高い可能性もあるとも言っている).一方,MSA-CにおけるPLCの病変部位については3つの可能性を挙げている.①両側性のcorticobulbar tract,②大脳基底核,③小脳および小脳と接続するシステム,である.著者は剖検例の結果やMSA-PでPLCを認めないことから①と②については否定的な立場で,③小脳が無意識下の表情コントロールに関与しているという仮説を第一に考えている.

 本当にMSA-CでこんなにPLCの合併が多いのか,もしくはPLCのメカニズムに小脳が関与するのかなどなかなか論議を呼びそう論文ではあるが,今後,MSA-Cでは注意深くPLCの有無を確認する必要があると思われた.

Mov Disord 22:798-803, 2007 
神経症候学〈1〉