ナルコレプシーに対するオレキシン作動薬の夜明け

第66回日本神経学会学術大会3日目,睡眠医学研究の第一人者,筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)機構長の柳沢正史先生のご講演を拝聴しました.①起立性調節障害の多くは睡眠相後退症候群であること,②ノンレム睡眠中の一時的なドーパミン濃度の上昇(dopamine surge)が扁桃体の賦活を引き起こし,それがレム睡眠の開始に不可欠であること,③睡眠不足は認知症,心疾患,肥満等につながること,④人は自分が眠れているかどうかを正しく判断することはできないこと(睡眠誤認)など大変勉強になりました.柳沢先生は覚醒の維持に関わる神経ペプチドオレキシンを発見されたことでも有名ですが,これに関連してナルコレプシー1型の治療のお話もありました.

ナルコレプシー1型は,日中の過眠やカタプレキシー(情動脱力発作),夜間の睡眠の分断など,生活の質を著しく損なう疾患です.図はオレキシン神経の分布と機能,およびナルコレプシー1型との関係を示しています.図1Aでは,オレキシン神経が外側視床下部に存在し,覚醒を促す乳頭体核を刺激し,睡眠を促す腹外側視索前野を抑制することで覚醒状態を維持していることが示されています.ナルコレプシー1型では,これらの神経が著しく失われます.

Bでは,オレキシンAおよびBが,プレプロオレキシンから産生され,それぞれOX1RおよびOX2Rという受容体に結合する様子が書かれています.オレキシンBはOX2Rに選択的に作用し,オレキシンAはOX1Rにも結合して報酬系に関与します.近年,OX2Rに選択的に作用する作動薬「oveporexton(TAK-861;Takeda社)」が開発されました.ナルコレプシー1型に対する効果を検証した研究が,最新号のNew England Journal of Medicine誌に報告されています.この薬剤は経口投与が可能で,血液脳関門を通過します.

日本を含む多国籍の多施設共同二重盲検無作為化比較試験で,112名のナルコレプシー1型患者が対象となり,実薬または偽薬を8週間にわたって使用しています.主要評価項目は,覚醒維持検査(Maintenance of Wakefulness Test:MWT)における平均睡眠潜時(入眠までの時間)の変化であり,副次評価項目としてEpworth Sleepiness Scale(ESS)スコア,週あたりのカタプレキシーの回数,Narcolepsy Severity Scale for Clinical Trials(NSS-CT)などが含まれています.治療群は4つで,1つ目は0.5 mgを1日2回投与する群,2つ目は2 mgを1日2回投与する群,3つ目は最初の2週間に2 mgを1日2回投与し,その後は朝のみ5 mgを投与する漸増群,4つ目は7 mgを朝1回のみ投与する群です.いずれの群も8週間継続されました.結果は以下の通りです.

  • MWTにおける平均睡眠潜時(眠るまでの時間)は,実薬投与のすべての群で有意な改善(5〜25.4分の延長)を示し,特に2mg→5mgの群で最も改善が顕著であった(睡眠潜時が健康人レベルに到達した割合が最大81%).(図2A)
  • ESSスコアは,ベースラインの18〜19点から,偽薬群では−2.5点,実薬群では−8.9〜−13.8点と有意な低下.(図2B)
  • カタプレキシー発作回数は,最大で週あたり7回から2.1回に減少し,偽薬群との比較で有意差あり(p = 0.003).
  • NSS-CTスコアも実薬群では28.7→8.1〜14.5と著明に改善した.

副作用は,不眠(48%),尿意切迫感(33%),頻尿(32%)を認めましたが,いずれも軽度から中等度であり,ほとんどが1週間以内に自然軽快しました.肝障害は認められませんでした.

以上のように,oveporextonはナルコレプシー1型に対して病態機序の本質に迫る新しい治療戦略として期待され,現在第3相試験(NCT06470828)も進行中とのことです.患者さんのQOLが大きく変わるものと期待されます.

Dauvilliers Y, et al. Oveporexton, an Oral Orexin Receptor 2–Selective Agonist, in Narcolepsy Type 1. N Engl J Med. 2025;392(19):1905–1916.(doi.org/10.1056/NEJMoa2405847